我々が住んでいる野々市町郷地区の各町は昔から農村地域として発展してきたが、永い年月の間には何時しか習慣が出来、それが毎年繰り返し行われ続けて年中行事として現在に至っているものが多い。
一方、時の流れに追随できず何時の間にか簡略化されたり、消え去ったものもある反面、新世代に即応した新しい行事が定着しようとしているものもある。
行事の中には各町、各家によって少しずつ相違している点もあり、画一的に取り扱うことはできないが、各町内で比較的よく行われている行事や特色のある行事を拾い上げてみることにする。
元旦
神前には三方に紅白の餅を重ねて乗せ、これにだいだい・串柿、うらじろ・ゆずり葉・ほんだわら等を添える。また徳利には御神酒と水を入れて供える。
神前に拝礼した後、一家揃ったところでお神酒で新年を祝う。
黒豆・勝粟・昆布・数の子など縁起物をあしらったお正月料理を食べながら、今年の抱負を話したり雑談に興じたりした後お雑煮を頂く。
辻占で今年の運勢を占ったり、福徳の中から何が出てくるかを楽しみに開けたりしている間に年賀状が届く。
初詣、初参り 一月一日~三日
町内の神社に参拝した後、祖先の墓にお参りして松花を供える。中には白山比咩神社に参拝する人もある。
旧年大晦日の除夜の鐘が鳴り終わり、新年を迎えると同時に神社に初詣する人も多くなっている。
仕事初め 一月二日
昔は縄・こも・むしろ・俵等に使う藁を打って仕事初めとしたが、この習慣はなくなった。
書初め 一月二日
子供達は書初めをした、書初めの中の一枚は左義長に使った。
年始回り 一月二日~十五日
親戚や、日頃特別お世話になっている家々へ年賀に出向くことも二日から始まる。
お買初め 一月三日
昔は一月二日が初売りの日であったが、近年は三日の開店が多くなり、福袋を売る店や福引で景品を出す店が多くなった。金沢・野々市町本町等の店へ、今年初めての買物に出かける人もある。
消防出初 一月六日
消防の出初め行事が行われ、郷地区の各町を巡回して、消防車が放水して行く。
新年祭 一月上旬・中旬
各町内の神社で新年祭を執り行なう。
左義長 一月十五日
「さんぎちょう」とか「さんぎっちょ」となまって呼ばれた左義長は、昔から一月十四日の夕方に行われてきた。近年では一月十五日の祝日の方が子供達も大人達も参加し易くなったため、十五日に変更している集落が多くなった。
当日は風向を見定めて左義長の場所を決め、そこに家々から集めてきた竹や藁で左義長の準備をする。葉がついたままの青竹を周囲に立て、その中に藁を積み重ねて火を付けるが、神社の注連飾りや家々のお飾りなども一緒に燃やす。
一月二日に書いた書初めを竹に結び付けておくと、やがて火がつき燃えて天高く舞い上がる。高く上がった書初めほど上手に書けていたとか、ますます上手になる等と言って喜んだ。
青竹が大きな音をたててはじけると子供達の元気な歓声があがる。
左義長の火で餅を焼いて食べると無病息災で長生きすると言われており、黒焦げに焼いた餅を食べた。一月十四日の夕方に左義長を行っていた頃は、翌十五日の早朝に残り火で餅を焼いたこともあった。
近年竹薮は町内から姿を消し、藁も少なくなってきており、太い竹や藁をふんだんに使った昔のような豪勢な左義長は望めなくなった。
初お講 一月中旬
お寺さんの春御講とも、お年頭回りとも言われるが、年初めにお手つぎのお寺から来てお経を上げ法座をつとめる。
成木ぜめ 一月中旬
柿の木に刃物で傷をつけ、傷跡に小豆粥を塗り付けて豊作を願った行事は既に見られなくなった。
新年総会(初寄合) 一月中旬
最近は勤めている人が多くなったため、一月中旬の日曜日に開催されることが多くなってきた。新町内会長が議長となって新年度の役員を確認し、行事計画、予算、懸案事項等の審議を行って議事を終える。
新年会 一月中・下旬頃
町内の人が相集い、温泉等へ一泊して懇親する。町内の会館で全員を対象とした新年会を開催する町内もある。
寒の餅つき 一月下旬
大寒に入ってから餅をつき、「かきもち」にした。寒の餅は「かび」が生えず長持ちすると言われた。
豆まき 二月四日
「福は内、鬼は外」と言いながら煎豆を撒く行事もだんだん少なくなってきている。
彼岸 三月二十一日
「お彼岸」とも言い、先祖の墓にお花を捧げてお参りする。
江掘り 三月下旬
生産組合長が中心になって行う協同作業の一つである。主として田圃の給・排水路に溜った土を掘り上げ、雑草を除いて水の流れを良くする。
神社の春祭り 三月中旬~四月上旬
神社の春祭りが挙行され、豊作と一家の繁栄を祈願する。神社境内及び児童公園の清掃は各家庭から出て協同で行うようにしている町内もある。祭の期間中は旗木を立て、旗や吹流しを揚げる町内もある。戦前は参道に堤燈を立て並べた神社もあったが、戦後は行われなくなった。
蓮如忌 四月二十五日
田植の準備で忙しい時であるが、蓮如上人の忌日を「れんにょさん」と言って、上人ゆかりの四十万のお寺へお参りに行く人もある。
端午の節句 五月五日
鯉のぼり・五月人形・菖蒲湯などは端午の節句を祝う一連の行事であるが、新暦で行ったり旧暦で行ったりしており、一定していない。
鯉のぼり 五月~六月
皐月空にカラカラ音を立てて矢車が廻り、真鯉や緋鯉が泳ぐ。床の間には五月人形を飾る家が増えてきた。男の子が生まれると誕生を祝って行われる。
菖蒲湯 六月四日・五日
田圃から菖蒲と蓬を採ってきて、これを束ねて風呂に入れ菖蒲湯とする。また、枕の下や夜具の下には、菖蒲と蓬を敷いて寝る。疫病を払い、虫除けのためと言い伝えられている。
さつき休み 五月下旬
昔は馬を使って田を耕し人手で苗を植付ける「田植え」が行われてきた。田植えは隣近所がお互いに助け合って協同で行われていたが、この重労働は集落全体の田植えが終わる五月下旬まで続いた。田植が終わる頃を見計らって、区長が「さつき休み」を通知する。近年は農作業が機械化されて耕運機・田植機が使用され、更に技術も向上したため田植えは五月上旬には終わるようになった。
雨やしこ 六月上・中旬頃
植えた苗は一雨ごとに成育し次第に緑を増すが、六月上中旬頃の雨の日には二~三回「雨やしこ」という通知が区長から出される。この日は農作業に疲れ切った人々は誰に遠慮することも無く休養を取ることができた。しかし農作業が機械化されると共に、この「雨やしこ」は何時の間にか聞かれなくなった。
氷室 七月一日
嫁の実家から嫁先へ万頭や煎り米を届ける風習がある。また実家で採れた枇杷などの果実を届けることもある。
七夕祭り 七月七日
星祭りとも言われているが、折紙、星を形取った銀紙、歌や願い事を書いた短冊などを結び付けた笹竹を立てる。
虫送り 七月二十日頃
集落ごとに適宜実施した。村の青年が太鼓を担い、それを打ち鳴らしながら田圃を一周し、子供達は松明を手にして後に続いた。田圃の害虫を追い払う行事であったが、何時しか絶えてしまった。
慰霊祭 八月七日
旧郷村から出征し、戦死された方々の霊を慰めるために、忠魂碑の前で遺族の方々を招いて、毎年行われる法要である。旧郷村が合同で開催している数少ない行事の一つでもある。
お盆 八月十三~十六日
毎年八月十三日~十六日までがお盆である。特に八月十五日は「地獄の釜も開く」として一日休むところもある。お盆には祖先の墓にキリコや花を供え、蝋燭に火をともして線香を立ててお参りする。
彼岸 九月二十三日
春の彼岸同様先祖の墓にお花を捧げてお参りをする。
地区運動会 十月上旬
郷公民館主催で十月上旬に体育大会が開催される。
神社の秋祭り 十月十五日前後
神社の秋祭りが行われる。お祭りの前には春祭り同様各家庭から出て協同で境内及び児童公園を清掃する。春祭りと同様に旗木をたて、旗または吹流しを揚げる。
新穀感謝祭 十一月二十三日
神社では今年も無事に稲作が終わり、穀物・野菜・果実などの収穫があったことを感謝して祭礼が行われる。昔どおりに新嘗祭とも称しているが各家庭で収穫した穀物・野菜などを神前にお供えする。
更に、この日には厄年に当たる人がお払いを受けることもある。
七五三 十一月
内報恩講 十一月下旬~十二月中旬
通称「うちぼんこ」とも「ほんこさん」とも呼ばれる。各家では数日前から仏具を磨き、仏壇に立花を供える。お手継ぎ寺の住職を招いて門戸の家々を回って読経をし、最後は宿の家に到り法座を勤める。
若衆報恩講 十二月
青年達が行ってきた報恩講であるが、何時しか絶えてしまい今は行われていないところが多い。
尼報恩講 十二月
町内の女性が集まって行っている報恩講であり「あまぼんこ」とも呼ばれている。
村お講 毎月一~二回
徳用町では、万雑又は初寄合で年間のお講番を決める。農作業で忙しい月(四、五、九、十月)は中止している。
年末総会(万雑) 十二月中・下旬の日曜日
一年間の町内経費を総決算する会合である。以前は万雑の時に一年間を振り返りながら決算をしていたためか、寄合は夜遅くまでかかっていた。近年は総会までに決算案が作成されており、議事は円滑に進められている。
このほか翌年の役員を決め、更に懸案事項の審議も行う。
近年、農作業にかかった経費の決算は、生産組合長が担当して開催している。
冬至
冬至のには、かぼちゃを食べると病気にかからないといわれ、小豆入のかぼちゃを食べる。
越年準備 十二月末
年末になると新年を迎える準備で忙しくなる。家の大掃除・餅つき・正月のご馳走の支度等であわただしい。
昔の餅つきは朝早くから餅米を蒸して、それを臼に移し杵で威勢良くつき上げた。
近年は家庭用の餅つき器で十分用が足りるため、餅つきの勇ましい音は聞かれなくなった。また、鏡餅はスーパーマーケットで買い求めることもでき、家で作る餅はだんだん少なくなってきている。
神棚並に床の間にお正月のお供え物を飾り、家の玄関には注連飾りを付け、自動車の前にも飾り付けると、お正月が間近にきた感じがする。
神社の鳥居に飾り付ける注連飾りは藁で編んで作る。十二月三十一日の午前に、町内の人々が集まって作り、出来上がると神社の鳥居に結わえ付ける。また、神社の社頭や、簡易水道のポンプ小屋の前にも飾る。
お正月の用意が済み、晩になるとテレビは既に大晦日の番組を放映しており、これを見ながら除夜の鐘を待つ家が多くなった。
年越しそば 十二月三十一日
大晦日の晩に家族そろって年越しのそばを食べる。
郷の今昔