むかし、むかし。
蓮花寺に正直者で、朝から晩までよく働く、源兵衛(げんべえ)という百姓が住んでいました。
いつの頃からか、源兵衛はからだをこわし、よく病気にかかるようになりました。
ある日のことです。いつものように朝早くから田んぼにでかけ、野良(のら)仕事に精を出していましたが、急にからだ全体がいたみ出し、どうにも立つことができなくなり、とうとう鍬(くわ)にすがってすわりこんでしまいました。
その時です。白いひげをはやした老人が源兵衛の前に立っていました。
「源兵衛、どうしたのじゃ。」
「はい。いつもの病気がでて、どうにも立つことができなくなりました。」
「それは、気の毒なことじゃ。お前のような働き者で、正直な者はほっておくわけにはいかない。」
やさしい目で源兵衛を見ていた老人は、
「おおそうじゃ。わしがお前の病気をなおしてやろう。今から言う薬の作り方をよくおぼえておくのじゃ。」
といって、薬草の取り方、作り方をていねいに教えてくれました。
「どうもありがとうございました。さっそく家に帰り、薬を作り飲みます。」
と、お礼を言って顔をあげると、もう老人は、村のはずれにあるお宮さんの近くをゆっくりと歩いています。
「ああ、もったいなや。神様のおつげじゃ。」
と、両手を合わせてふかぶかと頭をさげました。
源兵衛は、家に帰るとさっそく薬草を集め、言われた通りの薬をつくり飲んでみますと、ふしぎなことに、みるみるうちにからだのいたみはなくなり、もとの元気なからだになりました。
このふしぎな話がいつの間にか村から村へ伝わり、悪い病気にかかると薬をもらいに大勢の人たちが来ました。こうして源兵衛の家は、漢方薬(かんぽうやく)をつくるようになりました。
今でも、源兵衛の家には、薬の作り方を書いた本や、薬袋に押す木版が大事に残っているといわれています。
郷土の民話・伝説集