むかし、下林と堀内との間に大きな「いちょう」の木がありました。
お宮さんの境内(けいだい)にあるこのいちょうの木はとても大きく、枝は四方に広がり、春には目のさめるような若芽を出し、夏ともなれば、道行く人々のいこいの場でもありました。
風吹く秋は木の葉は天に舞い、子ども達のぜっこうの遊び場所となっていたのです。もちろん実も沢山なり、村の人々の生活をうるおしてくれました。
そんなわけで、いつのまにか近くに茶店(ちゃみせ)が一軒建てられました。往来だったので茶店は大繁昌、その内に茶店に色白のかわいい女の赤ちゃんが生まれました。
娘はおっかさんに遊んでもらえなかったので、いつも一人いちょうの木の下で、うたをうたい、雪をかぶった山々を眺(なが)め、まわりを見わたせば田圃(たんぼ)がある、秋ともなれば稲穂(いなほ)はこがね色に輝き、いちょうの葉もひらひら落ちて、娘の遊び友達になってくれました。
月日がたち、娘は大へん美しくなり、となり村からおむこさんを迎えました。
一年後に娘は、玉のような男のあかちゃんを産みました。家じゅうは大変よろこび、小豆飯(あずきめし)をたいてお祝いをしました。けれど、どうしたことか娘にはお乳が出ませんでした。
娘は大変悲しく思いなやみました。
「そうだ、お宮さんへいって神様にお願いしてみよう。」
それから娘は、朝夕お宮さんへいっておいのりしました。三日目の夕方娘が、
「どうかお乳が出ますように、赤ちゃんがほそって死にそうです。どうか神様のお力でお乳を出してくださいませ。」
一心においのりしていると、娘の耳もとで、
「よいことを教えてあげよう。おまえは毎日境内を掃除してくれた感心な娘であった。いまいちょうの実が沢山なっている。その実をもちの中へ入れて食べてみるがよい。」
と鈴をふるような声が聞こえて来ました。
よろこんだ娘はさっそく家に帰り、いちょうの実を入れたもちを食べてみました。二つ三つ食べると急に乳がはり、白いお乳が沢山でてきました。
二、三日もした頃には、赤ちゃんがごっくんごっくん音をたてて飲めるほどになりました。娘一家はそろってお宮さんへお礼参りに行きました。
このことを伝え聞いた村の人々や、遠くの村々からもお乳の出ないお嫁さんがこの「いちょうの実を入れたもち」を食べて見ると、どの人もみなお乳がでるようになったということです。
いつのまにやら、このお宮さんを「乳の宮」とよぶようになりました。
乳の宮は、田尻のお宮さんであったそうですが、今では堀内のお宮さんに合祀(ごうし)されております。
郷土の民話・伝説集