序
わが野々市町は、遠く平安時代から室町時代まで約五百年に亘り、累代富樫氏の居城を構えた加賀の旧都である。
しかし、その歴史のあまり町民に知られていないことを、洵に遺憾に思うていたところ、たまたま竹馬の友行野小太郎君が斯道に趣味を持ち、永らく研究中であることを仄聞したので、その発表を乞うた所漸くその承諾を得て、上梓したのが本書である。
行野君は早くより郷土史の研究に興味を持ち各地の旧家、図書館などに文献を漁り、斯道の先輩にも教を受け、約二十年の間、奉職の身であり乍ら、余暇と私財を投じて之に没頭し編纂されたもので、洵に貴重な文献である。
素より門外漢である私は史実に精通していないが、その稿本を一読すると、史料の豊富、編者の苦心が充分うかがわれて、吾等の祖先と郷土に対し愛着の情禁じ得ないものを憶えたので、ここに町制施行三十周年を迎え之を一般に頒ちひろく批判を仰ぎたいと思う。
昭和二十八年七月一日
野々市町長 福田 三次