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民話 『三納村のきつね』
むかしむかし、三納村の南の方角、六〇間程(100m)行ったところ木呂川淵に小さな丘がありました。
ここは熊笹がほとんどでしたがくるみ、ぐみ、イチジクなど実のなる木や、大きな柳もはえていました。
この丘の中ほどにちいさな洞穴があり、ここを棲家にいつの頃からか狐が棲みついていました。周りは片方が木呂川、もう一方には支流の瀬木川が流れていたため、狐にとってはここがとても安全な場所でした。
きつねが棲んでいたことから村人たちは、このあたりを『きつねやぶ』と呼んでいました。
きつねやぶの横には瀬木川の取入れ口を利用した水車小屋が有りました。
村の人達はこの水車小屋で粉引きや、わら打ちなど、水車を使う仕事は順番を決めてやっていました。
この水車小屋へときどきふらりときつねが遊びにやってきました。
きつねは近くの田んぼや畑のねずみやモグラを獲ってきて、それを小屋に来て仕事している村人に見せたりしたので、村人はきつねは田畑を食い荒らす害獣を獲ってくれる大切な動物で、自分たちの田畑を守ってくれる神様からのお使いだ信じていました。
しかし、きつねは水車小屋へ仕事にやってくる村人たちにも良い人悪い人がいることを知っていました。
良い人は水車小屋へ持ってきた弁当などのおすそ分けをくれる人。
悪い人は、けちで何もくれず、逆に追っ払おうとする人でした。
このきつね時々、矢作の方の大道に出かけ、道行く人にいたずらすることがありました。
秋祭りが近づいた或る日。村のごんべさんが尾山のまちへ祭りの買出しに出かけました。背中には家内と二人丹精を込めて作った沢山のわらぞうりの束があります。
朝早く、尾山へついたごんべさん、知り合いの家々を回って、「わらぞうりいらんかね~うちのぞうり丈夫で長持ちするぞー~♪」と売り歩きました。
ごんべさんのぞうりは尾山では「丈夫で長持ちする」と評判になっていたのでしばらくの間に売り切れてしまいました。
ごんべさんはぞうりを売ったお金を持って近江町市場へ買い物に行きました。
『おっかー』から頼まれた、祭りの御馳走に使う「はべん」「油揚げ」「こんにゃく」「砂糖」「塩」など頼まれた材料を買い揃えました。それについでにと、おっかーと子どもたちへのお土産も一緒に買いました。
ごんべさん、朝早く家を出て尾山の街中を歩き回り、親類などへの用事をしていたので、尾山の町を出る頃には、お日様も西に傾きはじめていました。途中の、野々市の町へついた頃には周りがもう薄暗くなっていました。さすがにおなかのすいたごんべさん、なじみの居酒屋へちょっと寄って行くことにしました。
お店でおかず食べ、お酒を少し飲んだごんべさん、元気を取り戻しました。
少しほろ酔い気分で野々市の町から矢作から三納に通じる大道を歩きはじめました。空には十五夜のお月さんが出ています。
ごんべさんが野々市の町外れ、矢作さかいまで来た時、街道脇の松の木の陰から、「ごんべさん、ごんべさん」と呼ぶ声が聞こえます。
ごんべさん、呼んだ声のほうを見てびっくり!
いままでに逢ったこと無いほどのきれいな女の人が、これまたきれいな着物姿でそこに立っていました。
「ごんべさん!そんなにびっくりしなくても~、そんなに急いで帰らなくても~、ちょっと私のところへ寄っていらっしゃいよ!」その甘い、やさしい声でついついその気になったごんべさん。きれいな女のひとにさそわれるまま、誘ってくれた家に入りました。通された部屋には秋を感じるせいそな花が一輪、床に飾ってあります。。
「あのね、ごんべさん、私はいつもお世話になっているから、今夜はお返ししたいの!」ごんべさんわけが解らないけど、女が勧めるおいしいお酒や、御馳走をたくさん頂きご機嫌いっぱいになりました。帰り際にはお土産にと、大きなマツタケと鶏の肉までもらいました。
上機嫌なごんべさん、月夜の大道を鼻歌まじり夢心地で家にたどり着きました。
ごんべさん。早速、おっかーに今日の出来事を話して聞かせました。おっかさんは祭りの材料にマツタケと鶏肉も加わったので大喜び「あなた、やっぱりいい人なんだね!」とにっこり。
翌朝、隣のやんべさんが朝から、ごんべさん夫婦がニコニコ楽しく話し合っていたので何かいいことあったのだろうと聞きにきました。
正直なごんべさん、ゆうべの出来事を隠さずに話しました。
うらやましくなったやんべさん、自分も早速、まねしようと、口うるさいオッカと喧嘩しながら編んだ、わらぞうりの束を担ぎ尾山のまちへ出かけました。
やんべさんのぞうりはがさつに作られていたので街の人の評判はあまりよく有りません。それでも午後遅までになんとかぞうりを売り切ることが出来ました。
ごんべさんと同じように市場で祭りの材料など口汚く、値切って買い揃えたやんべさん。
そのあとは親類などへの挨拶回りもしましたが、ごんべさんと同じようにいい思いをしようと考えていたので挨拶などいい加減でした。
日が落ちる頃、野々市の町に着きました。けちなやんべさん、居酒屋へ寄っていく事などしません。おなかが空いていたが我慢して野々市の町外れ、松の木のところまでやってきました。今夜の月は曇って、夜道はあまり明るくはありません。
松の木陰から「やんべさん、やんべさん」「そんなに急いで帰らないで、私のところでおいしいお酒でもいかが?」薄明かりのなかで、女の人が呼びとめます。
やんべさん、しめしめ「おいしい酒が飲めて御馳走が腹いっぱいくえるぞ!」、腹の減っていたごんべさん女の顔や着物姿などどっちでもいいはなし。
女の勧めるがままにお酒を飲み御馳走をたらふく食べました。
飲みそして食べ疲れたやんべさん、やがて眠くなりました。
「今夜は泊まっていってもいいけど、一寸と布団敷きますから、その間、お風呂でも入ってくださいな~」女に言われるまま、眠気まなこのやんべさん、露天風呂へ入りました。「この風呂ぬるめ、しかし何かいいにおい!」。
お酒を飲んでいたやんべさんいつの間にやらお風呂でうとうと。
翌朝、田んぼ仕事に出てきた矢作のお百姓さん、野だめ肥溜めに入って寝ているやんべさんを見つけびっくり!
「おーい、そんなとこはいってなにしとるんじゃ?」
矢作の人から呼び起こされたやんべさん、自分がどこに入っていたか判って、急いで外へ出たが、着物が見つかりません。
しかたなく近くの小川へ飛び込んだが恥ずかしいやら臭いやら、寒いけどしばらく外へでられない。
矢作の人一言『あんた、やっぱり狐にだまされたんか??』と言って、すたこらと田んぼ仕事に行ってしまいました 。
何とか家にたどり着いたやんべさん、おっかに「えらい、ひどい目にあった。きつねにだまされた!多分、きつねやぶの狐の仕業じゃ」とくどいた。
おっかも「あたしもあの狐、嫌いじゃ、うちの油揚げ盗んでいったことある!」ねたみ根性の強いやんべ夫婦。
しばらくたった或る日。きつね藪にある狐の洞穴を二人で壊し埋めてしまいました。棲む場所が無くなった狐はその日のうちに何処かへいってしまいました。
次の年、三納村の田んぼや畑に、どこから来たのかと思うほどねずみやモグラが増え、作物を食い荒らし、あぜ道を穴だらけにして村の人達を困らせました。
村の人達はやんべさん夫婦が狐を追い出した事を知っています。
皆から白い目で見られたやんべ夫婦、やがて村にいづらくなり、近所へ挨拶もせずにこそこそと村から出て行きました。
不思議な事にやんべさん夫婦が村から出ていくと入れ替わるように、きつねやぶに白い毛のきつねがすむようになりました。このきつねが来てからは、村の田んぼ畑のねずみ、モグラがまたたくまに少なくなりました。おかげで作物は豊作続き、村は豊かになりました。
三納村の人達はこんなことから、それからますます、きつねを大切にするようになりました。
三納の神社にはきつねが祭られています。
家族仲良く暮らし良い行いをしていればきつねが神様に告げてくれる。
悪い事をすれば、何時かきつねにだまされると三納村では語り次がれています。