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page=71 :これは住まいや生活環境整備という点でも同様の傾向が読み取れる。日常的な住まいは、地域の風土
や気候環境に適した建物形態を伝統的に代々継承して作り続けていくものであり、生活の中で人々にし
み込んだものである。移民たちが集団で住まいを作った場合、故郷の建物建築方法に基づくことは自然
のことであり、それが在地の通常住まい形態とは異なる場合は、煮炊具同様に移民の存在を示すことと
なろう。
しこうせい
このような現象は我々の現代社会においても一般的に見られる現象である。多くは食べ物の嗜好性や
味、調理方法、食べ方に象徴的に現れているが、家の間取り空間や建物の材質、住まいの環境整備の考
え方も同様に生活に密着する部分で、時代を超えて共通するものと言えるだろう。
(3)移民たちの煮炊具
① 伝統的集落域の煮炊具と在来型煮炊具
かゆ
弥生時代に稲作文化が伝来して以降、古墳時代前期までは米を煮て調理する粥調理が行われてい
たが、古墳時代中期におこった朝鮮半島からの大規模な渡来人移住によって、朝鮮半島で一般的で
あった米を蒸す調理が日本に導入される。調理方法とともに、先進的な調理施設であるカマドと蒸
ゆがまこしき
し調理用具である湯釜と甑が導入され、米を煮る調理具であった鍋は大きさと用途が分化し(小鍋
と大鍋)、野菜や雑穀類などを煮たり、ゆでたりするオカズ調理具となる。
以上の調理具や調理方法の変化は、畿内周辺にまず導入され、半世紀の後には全国各地へ波及す
る様相を見せる。北陸西部の煮炊具も、古墳時代後期にはほぼ器形や器種、製作技法が定着し、口
縁部外反器形で、胴部が張り、丸底を呈す器形となる。外面はハケ目調整、内面はケズリ調整を基
ざいらいがたしゃすいぐ
本とするもので、これら北陸西部に広く確認される伝統的な煮炊具を「在来型煮炊具」と呼ぶ。金
沢平野などの伝統的集落域で出土する煮炊具はほとんどが在来型煮炊具であり、これは能美平野と
江沼盆地に営まれる伝統的集落域でも同様の現象が確認されている。つまり、飛鳥時代においては、
伝統的集落域では伝統的な煮炊具作りを継承する様相が見られるわけであり、以下で述べる手取扇
状地の集落遺跡で出土する煮炊具とは大きく様相を違える。
page=71 :② 手取扇状地から出土する移民系煮炊具の故地
手取扇状地の新規開発型集落から出土する煮炊具は周辺集落から供給を受けたか、集落内に定数
存在したであろう在地民の製作による「在来型煮炊具」が主体的に存在はするものの、朝鮮半島の
なんしつどきこち
軟質土器や丹波地域を故地とする煮炊具、近江地域を故地とする煮炊具など、移民系煮炊具が3~
5割の高率を占める。ここで移民系煮炊具の特徴を簡単にまとめると以下の通りとなる。
朝鮮系煮炊具は朝鮮半島で出土する軟質土器をその原型とするもので、釜の長胴器形と小鍋の平
底器形、甑の底部形態、胴部叩き成形技法とロクロ回転を使用した引き出し技法、カキ目調整がそ
の特徴として上げられる。
きょうとふあやべしあおのがた
丹波系煮炊具は京都府綾部市周辺に分布する「青野型」と呼ばれる特徴的な煮炊具を原型とす
たいどちょう
るもので、釜の球胴器形、口縁部内面のロクロヒダ状の段形成、意識的に赤く発色させる胎土調
せいぎほうほんかんちゆらがわ
製技法などが特徴として上げられる。丹波では、綾部市周辺を本貫地として由良川流域、若狭まで
広く分布する傾向があり、その領域程度を丹波系煮炊具の故地と位置付ける。
近江系煮炊具は、近江地域を中心に山城地域など畿内北部にまで広く分布する煮炊具を原型とす
るもので、釜の長胴器形と受口状器形を特徴とする。ただ、地域によって若干口縁部の受口形態や
胴部調整技法が異なっており、手取扇状地のものと共通する煮炊具は外面下半のケズリ調整と受口
こほくこせい
器形の形態から、湖北や湖西地方の煮炊具が最も近いと判断され、当地の近江系煮炊具の故地と判
断する。