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page=70 :農業は向き不向きより、前向き。 三納吉博 一九六八年生まれ。農業者大学校卒業後、両親、祖母とともにトマト、きゅうり、水稲、野菜苗の栽培に従事。完熟トマト組合会員、石川松任・農業青年グループ会員。野々市町藤平在住。  農業は奥が深い。だから簡単には満足できない。「稲と稲の間隔を開けて植えてみたら、光や風が通って育ち具合がいい。来年はもう少し間隔を変えてみようと思う。蜂の受粉で育てたトマトはもう少し研究の必要があるようだ」。  結果はすべてダイレクトに返ってくる。もちろん新しい試みにリスクは伴う。けれどもリスクがあるから真剣になれる、真剣だから面白いのである。  3年前から化学肥料を有機肥料に替えた。昨年からは直販も始めた。それまで米だけは農協に出していたが、有機栽培も一般米も同じ価格で引き取る農協の方針に納得できなかった。それなら自分でやるしかない。消費者直販である。顧客の開拓から配達まで、すべて自分たちでやっている。「口コミで広がって、少しずつ配達先が増えました。どんな忙しい時でも注文があれば配達しなければならないけれど、お客さんと話すのは楽しい。直接反応があって楽しいから、しんどくても続けられるのだと思う」。直販は一括して農協に納入する従来の方法にくらぺればリスクは大きい。すべての責任を自分で負わなければならない。けれどもリスクがあるから頑張れる、ラクではないが楽しいのだ。  20年近くの歴史を持つ[完熟トマト組合]も自分たちで独自の市場を拓くところから始まっている。青く硬いトマトを収穫し輸送途中に追熟させていた時代に、その日に食べてもおいしいトマトの出荷を目的にスタートした。7軒の農家による共同出荷という新しい形態である。  効率を重視する大規模産地はパレットからガタンと落下させる機械選果が常識だが、傷みやすい完熟トマトは個々の農家で手選別をする。ぐるぐる回る選果台のトマトを一個ずつ布でやさしく拭き、大きさ、品質別に箱詰めする手選別はたいへん地味で根気のいる仕事だ。最盛期には一日8時間から10時間も手選別に費やす。「品質が良くなるのなら機械化もいいけれど、機械選果は身体がラクになるだけのこと。ならもっと違う方向から品質や味を高める工夫をしたい」。欠点に悩むより長所を伸ばそう。独自の流通形態、独自の商品づくりは、農業を続ける面白さ、楽しさとなって結実する。