『富奥郷土史』が、関係者各位の御協力により発刊されることとなりましたことの意義は深く、誠に重要な事業であると存じます。
町村合併以来、よりより企てられていたことがここに実り、編集委員によって地域の産業・文化・経済・風習等が明細に記録され、家庭宝典として、子々孫々に残る貴重な資料としてまとめられましたことは感激に堪えません。
豊かなこの地域が過去の歴史をたどり農村の生活・文化が各字毎に克明に記録され、地域に多大な貢献をされますことを、心から感謝し、満腔の敬意を表するものであります。
終戦後三十年、町村合併より二十年、新しい町づくりの中に「旧富奥村」を想起し、歴史を読み返すのもまたひとしおの感あるものと存じます。
『富奥郷土史』発刊にあたり、地域産業の発展と経済部門の一環として、これを担当している農業協同組合もまた然りであります。遠く藩政時代より、いろいろな制度の中に、共存同栄の精神が、数多くみられます。これらを集め、明治維新前後を通じ、協同組合の精神と今日までの発展を「日本農業協同組合発達史」として挿入させて頂きました。
協同組合精神は、すでに維新前より萌芽えており、明治初年よりこれを制度化するにありましたが、時期尚早にして、漸く明治三十三年三月六日帝国議会を通ずることにより発足し本年で七十五年、富奥村産業組合設立より六十五年、三転して現在の農業協同組合となりました。
地区の協同組合の歴史を綴るため、組合精神を基調として、内外の事柄を詳細に記録し、前身富奥村産業組合の発足した時点より、概略を記したに過ぎないことをお詫び申し上げます。
私達はこの歴史を通じて、先輩各位の御労苦を偲ぶと共に、変転極まりない世相の現状と将来を見究め、今後激動と変革を余儀なくされるであろう農協事業に対応し得るよう、切瑳琢磨の精神をもつべきと考えられます。
最後に、感謝を以って、この書を、謹んで故人並に先輩各位に捧げ、深甚の敬意を表するとともに、地域の限りない発展と地区皆様の御繁栄と御健勝とを切に祈念し、発刊の言葉にかえる次第であります。
昭和五十年一月三十一日
富奥農業協同組合長 田中 影信