2005年3月
野々市町本町在住 吉岡 幸三

 世紀の代わる時を前にして コンピューターの年号表記が騒がれていました。
 そんな時ふと気が付いたのは、現在あるもののすべてが一刻一刻過去になっていくことでした。普通の生活では過ぎ去る事に関心をもつより将来への希望の方が大切です。
 でも、1999年が2000年に移り代わる時代に生きて、現在の町の姿を在りのままに記録的に描いておけば、遠い将来にはきっと貴重な資料となるのではないか。そう思い立って2000年6月に三週間かけて描きあげ、その作品に「二千年家並之図」と題して町に寄贈させいいただきました。

 そして町民の皆様には、その年の文化の日に町民資料館でご披露できたものです。

 描き上げた街並みの範囲は、旧北国街道に沿った本町1丁目から4丁目で、道程の全長は約2キロ、道の両側を描くと4キロになります。長大な街並み景色を連続した一枚の絵に描くのですから、巻物にする以外方法はありませんでした。
 描く紙の長さは何メートルになるのかもサッパリわかりませんでしたが、とにかく、とにかく資料として描く事に専念して、家の前の植木鉢や車庫の車もそれなりに描き、仕上がった絵は、道の片側で20メートル、両側あわせて約40メートルにもなりました。

 また絵を描いている時は、それぞれの家の向かい側に立ってその家を覗き込んで描くのですから、道行く人や多くの人に怪しまれもしましたが、幸いにも話し掛けられたり絵を覗き込んでくれる方もあって、その沢山の人から激励をもらいながら、次第に大切な絵を描いている事への自信も涌いてきたものです。

 あれからすでに5年の歳月が流れた今、数箇所の家が取り壊されて新しい街並みが誕生していますが、これからも10年、20年と月日が過ぎ去ると、それは懐かしい感慨で眺められる二千年の街並絵図となることでしょう。

 一巻20メートルもある絵巻物をご覧いただくことはなかなか出来ませんが、幸いにも現在は家庭でインターネットをお楽しみいただける時代となり、また、町の主催するホームページや「ののいち地域ポータルサイト」の立ち上げと相まって、気軽にパソコンを通してわたしの描いた絵巻物をご覧いただける事になりましたので、どうか一度サイトを開いてゆっくり眺めていただければ幸いです。



 吉岡幸三氏の本町地区「二千年家並之図」は、2000年6月という時点の町並みを記録した労作であります。この「二千年家並之図」は、平成の史料として近年大きく変貌しつつある地域の景観のひとこまを今後も語り続けることでしょう。
 江戸時代に北国街道の宿駅であった本町地区(旧野々市)は、近在の農村の中心的な役割を果たして来ました。その町並みは農村の「塊村」形態とは異なり、街道に面して家が一列に建ち並ぶ「街村」の形態で、現在もその姿をうかがうことができます。また、大きな町でなかったことから、一軒ごとの敷地の間口が大きく、隣との間に空間をとった家が多いのが特徴となっています。

(野々市町 文化振興課 文化財担当 談)