白山の そのしののめや ほととぎす  鏡花

 

 初夏の早朝、はるか東南に白く輝く霊峰白山。ほととぎすの鳴き声も聞こえて、その爽やかさが一層強まる。泉鏡花の生れ故郷金沢の、静かなたたずまいが思い浮かぶ句だ。

 

 「雪をかむった白山の眺めは、いつ見てもきれい・」

 「その姿の美しさから古来、富士山・立山とともに日本三名山の一つに数えられている」

 「晴れた日の白山の眺めは、何か神々しいというか崇敬の念がひとりでに湧きますね」

 「史ちゃんでもそうか、平安時代のなかごろから、比叡山延暦寺とむすびついた白山信仰が広まり、『平家物語』にもそれに触れた文がある」

 

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 ☆安元二年八月、白山の神輿、既に比叡山東坂本につかせ給ふと云ふ程こそありけれ、北国の方より、雷おびただしく鳴ッて、都をさしてなりのぼる。白雪くだりて地をうずみ、山上洛中おしなべて、常葉の山の梢まで、皆白妙になりにけり☆[注1]

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 「白山信仰というと泰澄(たいちょう)大師が有名ですね」

 「越前の生まれで、養老元年(717)に、はじめて登頂したとされる伝承のひとだ」

 

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 ☆泰澄伝説にあるような見事な神仏習合の形であらわれる白山信仰は奈良時代のものではなく、平安時代のものであることがわかる☆[注2]

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 「伝承には、後世の潤色が多いってことですか」

 「登拝道は美濃・越前・加賀からの3ルートあり、それぞれの入り口にあたる馬場と中宮(遥拝所)が長滝寺・平泉寺・白山比め神社だった。」

 「明治の神仏分離令以降も、当地では男子の成人への通過儀礼としての白山登山が昭和30年代ころまで残っていた。3~4日間歩きずめの登頂は、その困苦を乗り切った自信ともなって、周囲からも一人前の男として認知されたという」[注3]

 

 「そういう時代もあったんだ。いまは、スーパー林道など道の整備がすすみ、夏の登山や春秋の行楽にとレジャー的要素が強いですね」

 「多くの人たちは、霊峰白山とひと口に言っているが、16世紀に噴火というか黒煙が上がったという記録がある」

 

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 ☆熊本県の南八代地方を支配していた相良(さがら)という小さな大名がいた。天文24(1555)年に書かれた文書「相良氏法度」の中に、『加賀の白山もえ候事』と明記されている。(要約)☆[注4]

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 「へえー、そうなんだ。初耳だわ」

 「この文章を読んだ13年前にはオヤッと思ったが、その後、これを裏付ける資料をいくつか見つけ、中高校生のころ習った休火山という分類はあまり意味がないことが分かった」

 

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 ☆慶雲3(706)年 越前の国に山火事『続日本紀』、長久3(1042)年 室・社堂などの損壊(水蒸気か)、天文16(1547)年 頂上から火煙や土砂を噴出す。天文23(1554)年 4月1日に山頂より煙が上がった。剣ヶ峰の南の方が焼け上がり、大きな岩を吹き上げて、白山奥宮正殿の屋根が打ち抜かれた。6月になると、剣ヶ峰全体から煙が立ち上がった。10月8日に大震動がおき、鶴来の白山本宮までも煙が充満した。(要約)☆[注5]

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 「いまは活火山とそれ以外の火山のふたつになって、白山は活火山になってますね」

 「そう、現時点では噴火の前兆はないが、長期的には噴火の可能性が高い時期にあるという」[注6]

 「ちょっと怖いわ(笑い)。白山の火山活動が始まったのが、30~40万年前だと、人間社会の歴史などほんの一瞬ですね」

 「たとえ考古学的視点を含めても、地質学的スケールとは桁が違うからね・」

 

 「はなしは飛ぶが、気象観測網が整って、近年台風の進路予報がTVなどで刻々知らされるようになった。日本列島を縦断するような進路をとる台風のおおくのケースで、白山が屏風の役割をはたし、石川県での強風被害が少なくなっている模様だ・・」

 「景観・貯水機能などに加え、風害でも白山の恩恵にあずかっているってことですか」

 「わたしなりの判断だが・・。昔の人たちはそれらを直感的にとらえ、神霊の宿る山として、素朴に白山を仰ぎ讃えていたんだろうね・」

 

 

白山を借景に県立大学を望む[注7]

 

 (2010.7.15)

 [注1]岩波文庫版「平家物語一」 -100- 鵜川軍の章 より

 [注2]白峰村史  -584-

 [注3]図説野々市町の歴史  -167-

 [注4]藤木久志ら著「加賀の一向一揆五百年」 -34-

 [注5]「白山火山(白山の自然誌12)」石川白山自然保護センター発行 -19-

 [注6]平松良浩 「白山噴火の可能性」講演レジュメより

 [注7]野々市なんでも百景コンテストより

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