「これまでとは趣向を変えて、今回は俳句で綴る『野々市じょんから』といってみようか」

 「おもしろそう・」

 「まずは、この句から入ろうか」

 

  - 新調のじょんから浴衣藍匂ふ   林 風声

 

 「まっさらな木綿地に藍色が鮮やかなゆかたは、本人でなくとも、浮き立つ気分になりますね」

 「社会状況の変化とともに、盆踊りから、イベント色の強い祭りとなり、開催時期も早まった。[注] それでも、ハレの日を迎える踊り手の気持の昂ぶりや新調の浴衣を見守る周辺の思いが伝わってくる句だね」

 

  - 豊穣の千灯揺らぐ盆踊り     藤村克也

 

 「会場の櫓(やぐら)を中心に、行燈や大小の電飾が幾重にも張りめぐらされ、華やいだ雰囲気がただようのを、千灯の二文字で切り取ったのはうまいね」

 

  - 大太鼓一打に踊り始めかな    古源和子

 

 送迎バスや徒歩など、各処から三々五々集った踊り子が、大櫓を囲むように輪になって踊り出す。太鼓の合図で、ざわついていた見物人たちも一瞬静まり、大勢の視線が踊り子たちに注がれる。

 

  - 農の手を月にかざして踊るなり  勝田知子

  - 初秋や今宵ピエロに扮しおり   進村五月

  - 一病を忘れて今宵踊るかな    長田葉月

 

 「農の手とは、踊りの仕草を言うのだろうが、農事に荒れた手とも読め、農作業に明け暮れた中のたまさかの休息だった盆踊り、詠者の若年時の生活を回顧した句とも解釈できる」

 「揃いの浴衣もいいけど、ピエロなどいろんな仮装も楽しめますね」

 「毎年同じことの繰り返し、踊りの動作も数分での繰り返し。そうなれば、人々の意表をつく扮装に変化を求め、おかしみを誘おうというサービス精神の旺盛な踊り手も出てくる」

 

  - 輪踊りやチョゴリの裾をひるがえし 進村五月

  - 仮装して踊り上手の現れし     磯部俊子

 

 「私も踊りたくなってきたわ・」

 

  - 走り出て子の帯直す盆踊り    瀬戸初枝

  - 星深し踊り重ねて八十路かな   瀬戸澄子

 

 「踊りもたけなわ。まさに老いも若きも・・という図だね」

 

  - 菅笠を小脇に憩ふ白浴衣    舘 比左子

  - 休憩の踊子母の顔となり    増山光子

 

 暫しの休憩時間も、詩魂は句作の題材を見逃そうとはしない。平成5年に初めて、じょんから投句大会が実施された。以後平成17年までに、毎年上位に選抜された句の中から任意に抜き出して、この稿を構成している。 

 

  - 輪踊りのひと手遅れる法被の子  中川 幾

  - 踊唄富樫称えるくだりあり    西田富子

  - 目を閉じて吹く少年の祭り笛   瀬戸初枝

  - 膨らみて母子を離す踊の輪    小林 清

 

 「チーム編成によるコンクールが終わり、後半に入るとジーパン姿の見物人らも踊りの輪に加わってきますね」

 

  - 踊り立つまで裏方でありにけり  北 重子

  - 行列のしんがり野菜御輿練る   館 宗一

 

 「いろんな人たちが、それぞれの役割を分担して祭りが成り立つということだろうね」

 

  - 踊り笠外して月と帰りけり   坂本千代江

 

 今宵は、存分に踊りを堪能できた。そんな充ちたりた思いを胸に月明かりの中を家路につけば、汗ばんだ肌に夏の夜風が心地よい。

 

 (2011.7.9)

 [注]

 昭和57年 第1回野々市じょんからまつり

  じょんから踊りと野々市まつりを統合(広報6月15日号)

  役場(現図書館)周辺で8月1日、2日に開催(広報7月15日号)

  第1回の模様(広報8月15日号)

 平成 2年 文化会館フォルテ周辺で開催

 平成12年 土日に開催

わが町歴史探索