炎暑下、庭のサルスベリ(百日紅)や夾竹桃が、今が出番とばかりに咲き誇っている。

 

 「こんにちは、暑い日が続きますね」

 「そうだね。だけど、今年は熱帯夜が少なく、寝不足にならないで助かっているよ」

 「先日、篤志が御経塚の縄文土器焼きの体験会に参加したのですが、あそこは国の指定史跡なんですね」

 

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 ☆御経塚遺跡からの出土品4,219点が平成22年6月に「石川県御経塚遺跡出土品」として国の重要文化財に指定された。昭和31年の発掘調査以降、昭和52年3月に「北陸地方を代表する縄文時代後期・晩期の集落跡として国の史跡に指定される。(要約)☆(注1)

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 「あまり身近すぎて、国レベルの文化的な価値がある処とは知らない人が多いようだ」

 「小学生のころ、遠足をかねた社会科の勉強で、私も行っていますが、なにしろ遊び盛りですから、友達とのふざけあいのほうに関心がいっていて・」

 「まあ、縄文晩期などというと、大人でも興味を持つ人は少ないだろうね」

 「篤志らと一緒に、資料館を案内してもらいましたが、三千年もの昔に、素敵な形の器を作っていたのですね」

 「有名な『御物石器』は言うまでもなく、壷や甕(かめ)にもなんとも優美な姿のものがある。それにくらべ、今のふるさと歴史館は、展示施設としてはちょっと貧相な感じだね」

 「真脇遺跡縄文館(穴水)は、おしゃれな感じの建物でした」

 「うん、あそこの『お魚土器』には、感嘆したな。優美などと一言でいえない造形感覚のすばらしさは、6000年も前の物とは信じられず、強く印象に残っているよ」

 「ポーレポーレでしたか、温泉施設も隣接していた」

 「お隣り福井県小浜の縄文館もしゃれたデザインで、展示法も工夫されていた。ところで、資料館は誰が案内したのかな」

 「はい、説明を受けたのは年配の方、伯父さんより少し上だと思います」

 「それなら市村さんだろう。あの方が中学生のころ、田圃の小川で土器片をみつけ、社会科の先生に見せたのが、発掘のきっかけという話だよ」

 「うらやましいわ。自分の体験と、歴史が直接結びつくなど、稀な例ですね・」

 「出土品の整理に、あまりにも長い期間を要したのは、少し問題だろうな。その分、一般町民に歴史的な意義を知らせるのが延びてしまったのだから」

 「展示されている出土品では、玉(ぎょく)というのですか、ヒスイ製品に惹かれましたわ」

 「やはりね。首飾りや腕輪に使われたと推測される翡翠については、この50年ほどで次のようなことが分かっている」

 

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 ☆ヒスイは日本に産せず大陸から渡って来たものと長い間考えられてきました。しかし、1938年に新潟県糸魚川市小滝川支流土倉沢からヒスイ原石が発見されました。翌年、現在の小滝川ヒスイ峡のヒスイ転石群が確認され、続いて1954年青海川(橋立)でも発見されました。このことにより、ヒスイは古代から日本で産出された宝石であったことが分かりました。

  世界で最初にヒスイを使ったのは、約5000年以前の縄文時代前期末の人々だった。この翡翠文化は世界最古のもので、ヒスイは日本が世界に誇れる宝石でもある。☆(注2)

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 「県内にも橋立という地名がありますが、やはり糸魚川市内ですか」

 「そうだよ。金沢のチカモリ遺跡や小矢部の桜町遺跡なども考慮に入れると、その当時なりの交易圏が想像されて楽しくなるよな・」

 「チカモリは祭祀列柱が有名ですが、桜町は何ですか?」

 「水さらし場だ。10年あまり前かな、どんぐりなどのアク抜きに使った水晒し場の遺構がそのまま発掘されている」(注3)

 

 

 

 「採取したものを、そのまま食べるのではなく、事前に加工するということですか」

 「そう。ところで白峰のトチモチを食べたことがあるかな」

 「ええ、珍しいのでたまに買います」

 「多分その加工法は、縄文期のそれと同じ延長線上にあると思われる。アク抜きの知識もなんだが、縄文時代に漆も既に利用していたことが、近年分かってきたようだ」

 

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 ☆素地を作り、これに下地と塗りが加わった本格的な漆器とそのための工具が日本列島に出現するのは、縄文早期末から前期初頭(約7000~6500年前)のことだ。代表的な例に石川県七尾市の三引(みびき)遺跡(漆櫛)富山県射水市南太閤山1遺跡(漆塗りひょうたん)・・(略)☆(注4)

 

 ☆金沢市米泉遺跡(縄文後・晩期)からはクロメに使う鉢と漆濾し布が出土。(中略)縄文時代にも今日と大差ない漆器の工程と造形技術が存在したことを思うと、その知恵と感性に脱帽するほかない。☆(注5)

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 「不勉強で、そんな話は初耳・」

 「赤外分光分析など、研究手法の進歩に負うところもあるんだろうが、新しい知見が随分増えているようだ」

 「伯父さんと話していると、原始的な生活だった縄文時代というイメージが、すっかり薄くなるみたい・」

 

 (2011.10.21)

 注1:「のっティ新聞」’10年9月号(第17号-3-)

 注2: 吉澤康暢 「自然人」’08(No17)-6-

 注3: 北陸中日新聞 ’98-7-25号

 注4: 四柳嘉章著「漆の文化史」―9―

 注5:   同         -19-

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