「第31回で、野々市じょんからを取り上げたが、今回はその続編・」

 「確か、俳句で踊りの情景を綴るという楽しいものでしたね」

 「踊りの音頭には、かっては『あさぎ返し』や『和尚おとし』など、いろいろな歌詞が唄われたようだが、近年は『富樫略史』が繰り返し流されているようだ」

 

  ♪ 時の帝(みかど)は 一条天皇 雪に埋れて 開けぬ越路

  ♪ 加賀の司に 富樫よ行けと 勅諚かしこみ 都を後に (脚注)

 

 「音頭に出てくる一条天皇やその時代について、次のような文章に出会った」

 

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 ☆紫式部が「源氏物語」を起草したのは、長保三年(1001)。結婚して三年目にして、夫と死別した年のことである。第66代一条天皇の中宮(后)の女房(側近)の一人になったのは、寛弘二年(1005)頃とされる。彰子中宮の父である藤原道長が物語の評判を聞いてスカウトしたのである。一条天皇にも文才を称えられた式部は、つぎつぎに物語の巻数を増していった。☆(注1)

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【女房装束で物語の想を練る式部】

 

 「へー、源氏物語が生まれたころの天皇だったのですか」

 「もう一人いるんだ」

 

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 ☆いまから約一千年前の昔、時は一条天皇の御代のこと。関白藤原道隆とその娘である中宮定子が天皇のご寵愛を得て、華々しい栄華の日々を過ごしていたころ、この才気煥発の中宮に女房としてお仕えしたのが、「枕草子」の作者、清少納言だった。 ☆(注2)

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 「清少納言もですか。『枕草子』なら、古文などの授業で少しはかじっています」

 

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 ☆金太郎こと坂田公時(金時)は、66代一条天皇(在位986~1011)の時代、つまり、平安中期の紫式部たちが活躍した頃の人だった。京都府北部の大江山の鬼酒呑童子を退治したことで知られる源頼光(948~1021)の四天王の一人である。☆(注3)

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 「こういう記述にあうと、その時代がぐっと身近に感じられるから不思議だよね」

 

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 ☆紫式部の父は藤原為時、長い間式部丞をつとめたので、地方長官になりたい希望を持っていた。その希望はかなえられたが、淡路守。為時、これを悲しんで嘆願書を一条天皇に奉り、(略)任地を越前に変更された。為時は感激して、女(むすめ)の紫式部をつれて、越前の国府(武生)に赴任。

  18・9歳のころ、しばらく越前へ下ったのが、紫式部の京都を離れた唯一の経験・・ ☆(注4)

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 「これは、加賀介として忠頼が当地に下向してきた時期と相前後する」

 「父に同行した故事があって、武生に紫式部公園ができたのですね・」

 「『枕草子』178段したり顔なるものの一節に

 

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 ☆(前略)また、除目に、その年の一の国得たる人。(後略)☆

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  という文があって、次のような注釈が付されている」

 

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 ☆「国を得たる人」とは、現代の県知事に当たる地方国の長官、いわゆる受領である。中級階級の貴族は、中央官庁の下っ端役人でいるより、地方でもよいから一国の主(受領)になりたがった。徴税権により財力を蓄えることができるからである。(中略)

  だから「除目」(大臣以外の官職の任命式)が近ずくと、たいへんな騒ぎになる。大国・中国・小国合わせて68ケ国のうち、任期四年の切れる国が毎年いくつか出るのだが、そこに多くの志願者が殺到する。☆(注5)

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 「なんか、優雅な平安時代のイメージが崩れそう・」(笑)

 「春は曙・・など、『枕草子』は体言止めのきりっととした文体が多くて、注釈にあるような裏の事情を知らないと何を言っているのか判らないこともあるが、いつの時代も利権をめぐる駆け引きはすざましいものなんだろうな」

 「それに比べ、富樫略史はきれいごと過ぎると言いたいのでしょう・。伯父さん」(笑)

 「まあ、盆踊りの音頭だから、そこまではね。ただ、景気づけが中心のこのての歌詞によって富樫氏の治世をイメージするのは、贔屓の引き倒し。他所の人には、歴史認識を疑われるだろうな」

 

 (2012.2.14)

 脚注: 木村素堂作 「昭和3年7月 レコード吹込権所有」

 注1: 河合真如著 「絵で見る美しい日本の歴史」-158-

 注2: 萩野文子著 「ヘタな人生論より枕草子」-4-

 注3: 関 裕二著 「おとぎ話に隠された古代史の謎」-73-

 注4: 平泉 澄著 「物語日本史(上)」-220-

 注5: [注2]に同じ  -65-

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