「この故知問答を始めようと考えた時には、おおよそのテーマを書き出し30~35編くらいと踏んでいた」

 「じゃ、ぴったし。(笑)3年くらいのお付き合いでした」

 「石碑や神社シリーズは多少羅列的だったが、ふだん見過しがちな処にも時代のあり様を示す刻印が残されていた」

 「いろんなエピソードが聞けて楽しかったわ」

 「昭和30年代半ばまで、当地では農業が基幹産業だった。近現代のできごとを主に取り上げたが、資料に当たっていると自身の体験と重なり、身につまされることも少なくなかった」

 「篤ちゃんは・・」

 「大きなハコみたいな電車は、おもしろかった」

 「松金線のことだね。当市は平坦な地形で、自然といえば用水と田圃。その水の源としての霊峰白山は、自然史的スケールでの歴史があった」

 「左儀長や虫送りにも、地域の伝統行事的な見方以上の深い意味が隠されていました」

 「末松廃寺以降を通史的に振り返るため、次のメモと略年表を見て欲しい」

 

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 ☆石川平野の新興勢力として、7世紀前半に扇状地へ進出し川原石積横穴式石室墳を築造した勢力があったが、上位の古墳が平野部に存在した形跡はなく、これらは7世紀後半に新たに入植した開拓移民集団に吸収・編入されていったとみられる☆(注1)

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 「その人たちが、扇状地を開いていった」

 「日本史年表を参照すると、『660年に百済が唐・新羅連合に敗れ、日本に救いを求める』さらに『663年白村江の戦いに敗れ、任那(みまな)を放棄』とある。移民の多くは、これらの動乱を嫌った渡来人かもしれないよ」

 「そこまで考えるのですか・。鉄器を利用する技術を持っていれば、少しの荒地などはものともしない・・」

 「文明の発展は、常に異民族との交流から生まれているからね」

 「そして、823年には越前国から加賀の国が分離設置されてます」

 「手取の暴れ川から北東側で開墾が始って150年くらい、それなりに安定した生産力が備わってきたのだろうな。先の報告書にも、次のような一節がある」

 

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【中世の略年表】

 

 ☆拝師郷は、延暦8~11年(789~792)ごろの長岡京出土木簡に「拝師白米五 コ」とみえるのが、唯一の文字資料である ☆(注2)

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 「紀貫之も加賀に来ているのですか。伯父さんは有名人ばかり漁っている・」(笑)

 

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 ☆紀貫之の官位は御書所預から始まって(中略)、さらに行政官僚としても加賀介、美濃介、右京亮、土佐守、玄蕃頭、朱雀院別当、木工権頭まで上がったが、本領は宮廷歌人であった。☆(注3)

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 「貫之の『土佐日記』は920年ころとすれば、その10年くらい前に加賀に赴任していたことになる」

 「略年表を見ると、10世紀末に忠頼が加賀介として下向していますね」

 「この人か、その子孫がそのまま土着して加賀斉藤(林氏)の始祖となっているようだ」

 「だとすれば、承久の乱で中央との繋がりが断たれるまでの、200年くらいが林氏の時代だったと・」

 「そう言えるだろうな。その後100年余り、加賀は鎌倉幕府の直轄地とされた」

 「あまり、そんな話は聞きませんね。じゃ、富樫介や加賀の守護としての富樫は150年前後・」

 「一向一揆の支配が100年くらいとすればね」

 「じゃ、富樫500年という表現は少し大げさ・・」

 「まあ、富樫の系図の根拠となっている『尊卑分脈』自体が室町期の作。また僭称(せんしょう)という問題もあるからね・」

 「僭称というのは、宴会などで乾杯の音頭に指名された人が『僭越ながら・』とよく言いいますが、あんな意味かしら」

 「そう、そんな立場でもないといったニュアンスだよね。地元ではえてして、身びいき的な見方になりがち・」

 「郷土のことだからこそ、そこを数歩下がって考えよう。それが伯父さんの姿勢ですか?」

 「独善的な面もあっただろうが、何か視点を設けないとストーリは組めない。史さんが時折示す『?マーク』に、私の一人合点というか突っ込み不足を気付かされた。積み残しはいくつかあるが、『わが町歴史探索』は今回をもって、一区切りとしたい・。長らくの付き合いを感謝するよ」

 「いえ、とんでもない。こちらこそ、ずい分教わることがありました・」

 

 数日前より、ポツリポツリと咲きだした庭の雪柳が、一斉に開花した。淡雪がふり積もったかとみまがうくらい白さが際立ち、浅みどりの小葉を背に遅かった春の到来を告げている。

 

 

 

 (2012.04.11)

  

 注1: 文化庁刊 「史跡 末松廃寺跡」 -135-

 注2:     〃           -116-

 注3: 高橋睦郎著 「読みなおし日本文学史」-63-

わが町歴史探索