[part1]
1、欧米と日本の組合思想のひらき
協同組合は欧米の先進資本主義国家に生まれたので、それらの国々の中小経営者、勤労者の経営、生活思想は、日本の場合よりはるかに高位にあった。組合思想は組織の主体となるべき中小経営者、勤労者の直接的経済利益と強く結びついて形成される場合が多く、これらの欧米の組合思想は明治から一世紀にわたる日本の資本主義化の歴史の間に、それぞれの時期に応じて輸入されて、日本の協同組合への適用が試みられてきたといえよう。
日本の資本主義が短年月の間に高度の発展をしたのは、中小経営者、勤労者の側の犠牲で進められたので、経済力が弱められ、自主的な協同組合の組織を困難にし、国家、資本家、地主の勢力を背景にして協同組合が組織される期間が長く続いた。このような組合実体に、先進欧米諸国の組合思想をそのまま適用すれば、思想的にも実体的にも大きな矛盾をきたすことになる。
ことに戦争直後まで前近代的な土地制度が残されており、地主が農村の協同組合の実権をにぎっていたので、その立場を守る組合思想が形成され、欧米の近代的組合思想に前近代的組合思想を混入させることになったといえる。
ただ、これは地主ばかりでなく、資本家も農村のおくれた状態を利用することが有利であったために、勤労者の雇用条件もできるだけ近代化させないように努められた。このことは前近代的性格のなごりの強い中小商工業経営を数多く作り、その組織をもおくらせている。
資本主義が高度になるにしたがい、中小経営者、勤労者の経営と生活はゆるやかに高まり、欧米の組合思想にそった組合員の要求も一部にあらわれてきた。しかし、国家に育成された協同組合では、組合員の要求に応ずることをしないで、かえって国家主義思想をとり入れることに努め、一般組合員の自主的な活動をおさえてきた。
明治と大正の初めは、協同組合の経営実体が弱かった。大正末期から欧米の同時代的思想が紹介されたが、日本の経済力の底の浅さから、これらの組合思想の十分な発展の余地を許さなかった。
昭和初めの長期準戦時、戦時の強い思想統制によって、組合思想は国家主義思想に統制されてしまった。
第二次大戦後は、日本の政治経済が民主化され、協同組合の職業別立法が確立した。中小経営者、勤労者が、その職業的利益に応じて、おのおのの組合思想を発展させる機会を持つことになり、日本の協同組合にも欧米の組合思想を同時代的に活用できる条件が生まれてきた。
2、日本の協同組合思想の特性
客観的に書かれた著書は別として、協同組合が客観的に掲げてきたそのときどきの協同組合の理想、理念、法趣旨方針などが、ときとして客観的性格を離れがちになることは、日本の組合思想のひとつの特徴である。
また、協同組合の種類が多く、それぞれの時期に組合の主張や方針の転換がたびたびあった。さらに、協同組合の思想、性格を、その特殊経営方式から導き出そうとして、これを重視する傾向も強かった。
特殊経営方式の論点は、国情、時代、組合の種類によって重点を違えているが、組織対象、組織的自由、民主的管理、利益分配、政治的立場、国家との関係、国際連絡などが組合思想上たえず上げられてきた。
協同組合は経済団体であるので、経済思想を主体に組合思想を形成する必要がある。しかし、日本の社会経済状態では、中小経営者、勤労者の自主的な団体として組織されないで他の政治経済勢力に利用されることが長く続き、組合思想上の矛盾は甚しかったので、低い経済思想に倫理、生物、社会学などの観念を機械的に結びつけて用いてきた。また、国家の指導助成が強められるにしたがって、時の主流の政治勢力に利用されて拡大してきたので、政治思想との関係が深かったとも考えねばならない。
最後に、欧米の協同組合でも、一部の学者は組合の起源を古代的、封建的なものに求めるものもあるが、前時代的思想を現実の協同組合で採用する場合はほとんどない。しかし、日本の場合は時期によって古代的、封建的思想が組合の思想上に重視されていた。この後進的な組合思想の状態は、二重構造の底辺の経営と生活がいかに後進的であったかを物語るし、それに対応した社会構造が長く残されていたことを示している。
以上のような日本の組合思想の特徴は、明治から今日までいくたびかの変化をしてきたので、明治、大正、昭和戦前、戦後の区分をもって変化を考えよう。
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